「広報」と「広告」   知っておきたい役割の違い




広報・PRに関するお問い合わせで多いものの1つに

「広報」と「広告」どちらをするべきなのでしょうか?

というものがあります。

近年、広報・PRを「タダでできる広告」と誤認させるような表現も増えており、これには危機感を感じています。そもそも、広報・PRと広告では役割が異なるものであって、掛かる費用で比較するものではありません。
後述しますが、多くの企業や組織は認知が欲しいと考えていると思いますが、実は、広報・PR活動は認知獲得のために行うには、困難を伴う活動なのです(もちろん、広報・PR活動の結果としてメディア露出が実現した場合に、その効果が得られる可能性はあります)。

手段としての「広報」か「広告」かの比較は長らく行われてきていますが、時代の変化に伴うメディアの多様化、それに伴った広告メニューの多様化、そしてこれらの影響も受け、広報手法の多様化が起こったことも影響し、かつての比較は今の時代にはフィットしなくなっています。

この記事では、過去の観点と現在の観点から、そして、そもそもの広報と広告の役割から、自社の場合に置き換える時の考え方をお伝えします。

目次

「広報」と「広告」はそもそも比較するものなのか?

広報活動を限定している前提の存在

コスト面での比較に意義はあるのか?

編集権の有無の比較は意味があるのか?

広報には広報の役割、広告には広告の役割

認知獲得には向かない。でもなぜ広報・PR活動は必要なのか?

「広報」と「広告」はそもそも比較するものなのか?

かつて、広報と広告は、下のような図でその違いを説明されていました。

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「広報」と「広告」の違い



かつて、多くの広報関係者が、このような区分で広報と広告の違いを学んでいましたが、広報や広告の世界にも多くの変化がもたらされた結果、時代の現状にはフィットしていない説明になっているのが実情です。
また、「コストをかけられないので、広報をする」という、本来役割の異なるものを比較した上での判断も、この図のような比較が1つの要因になっていると考えられます。

では、どういう点でフィットしていないのか、以下それぞれ解説していきます。


広報活動を限定している前提の存在

この比較が今の広報・PR活動にフィットしていない最も大きな理由は、広報・PR活動を極めて限定的に捉えている点です。
限定的に捉えている、つまり、広報・PR活動を「メディアリレーションズ」に限定した比較になっているのです。
広報・PR活動は、多様な手段を活用して推進していくものです。もちろんメディアリレーションズによって取材や記事掲載が行われると、その影響は大きいものがありますが、メディアリレーションズはあくまで広報・PR活動の中における手段の1つにしか過ぎません。多様な活動のうちの1つの手段に絞って他の機能と比較しているため、意味のある比較になっておらず、誤解の元になっています。

また最近は、広告を広報・PR活動の手段として活用するシーンも増えてきました。動画やテキストなど、情報量の多いWEB広告メニューが増えた結果、スタートアップの資金調達やIPO、社会課題に挑む公益性の高い組織などでも広告の活用の幅が広がってきています。

コスト面での比較に意義はあるのか?

前述のような比較になっているのは、日本の広報活動では、メディアリレーションズとその結果におけるパブリシティ(※後述します)によるメディア露出に比重が置かれてきたことが要因の1つです。ただ、情報発信を目的とした日本的広報活動から、PR、つまりパブリックリレーションズに活動の広がりを見せている昨今の状況や、また、若年層を中心に一般メディアの接触頻度の低下やメディアに対する信頼度の低下も影響し、広報活動は外部のメディア露出のみに軸足を置くものではなくなってきています。
多様なチャネルや手段を活用し、情報に触れていただくタッチポイントを創出し、点から面へと関係性を広げていくことが広報活動においてより必要になっているのです。

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広報か広告か、コストで比較するものなのか?



費用がかかるか否かという観点は、メディア掲載において「掲載料がかかるのか否か」というポイントに絞られたものです。
広報が関わるメディア露出の多くは「パブリシティ」という領域で、掲載されることに対し費用はかかりません。これは、メディア側が「この情報は読者・視聴者に知ってもらうべきものだ」と判断するからこそ、取材が発生し、メディア側の意向によって掲載されるものだからです。
他方、ここで比較される広告は当然、掲載料がかかるものです。

つまり、広報の活動を「パブリシティによるメディア露出」に絞って「広告」と比較しているという点で、現代の広報の在り方とは乖離している状況となっているのです。

広報・PR活動の幅の広がりと多様性が織り込まれていないこのコストによる比較観点は、令和の広報活動にはフィットしないことがわかります。

「広報はお金のかからない宣伝活動」、「広告より安上がり」といった費用面だけで比較することは、広報活動を矮小化して捉えているものであり、誤った捉え方と言えます。このような捉え方をすると、広報・PR活動を自由な発想で創造的に展開することは難しくなってしまい、そのようなPR活動を推進する先進的な考えを持つ企業と溝を開けられてしまう結果になります。


編集権の有無の比較は意味があるのか?

編集権の有無という点もまた、広報・PR活動を「パブリシティによるメディア露出」に限定した比較において記されているものであり、広報・PR活動を限定的に捉えた結果です。

パブリシティによってメディアに取り上げられる場合は、メディア側に編集権があるため、取材を受ける側が表現されたいと考えるとおりには必ずしもならない可能性が含まれています。ただし、メディアという編集のプロフェッショナルによって発信される情報は、社会の関心事項と密接に関係し、第三者の視点で伝えられることによって、信頼を得ることにつながります。


一方で広告においては、編集権は出稿者側にあります。法令や公序良俗等に反しなければ、自社が表現したいことを思ったように表現することが可能です。ですが、自社視点での編集は、時に多様な視点を欠くこともあり、広告が炎上をしてしまう事例も近年複数発生しています。こういった事態を避けるために、近年は広告制作にもPRの視点を組み込まれる必要性に言及する人も増えてきているという現状があります。

この比較は広報・PR活動の1手段であるメディアリレーションズと広告とを比較しているため、広報・PR活動全体を表しているものではない点で、多様な手段による活動が増えてきている昨今の広報・PR活動おいて、手段選択の判断材料となるような比較にはなっていません。

広報には広報の役割、広告には広告の役割

「広報」と「広告」、かつての比較には広報を限定的に捉えているという点から、もう比較の意義は無くなっていることをお伝えしてきました。

では、「結局どちらを選択すればよいのか」という点にも触れておく必要があります。

答えは「目的によって異なり、相乗効果を生む」です。

広告の利点は、出稿した費用に応じて露出され、内容も自分たちの伝えたいことをそのままに表現できる点です。出稿量を増やせば、リーチできる対象者やリーチする頻度も増え、「認知」の獲得や向上によりダイレクトに貢献します。特にWEB広告ではこういったコントロールを細かくチューニングしていくことが可能です。

一方で広報・PRだけで認知を獲得していくことは困難を伴います。パブリシティによるメディア露出に絞って考えても、記事にしたいとメディア側に思ってもらえなければ、情報が世に出ていくことはないため、認知が欲しい時に確実に露出するというコントロールができないからです。不確実性が高い活動なので、認知獲得を重視する場合にたった1つの手段として選択するにはフィットしていないと言えます。


認知獲得には向かない。でもなぜ広報・PR活動は必要なのか?

それは、社会との関係性を構築することに主軸を置く広報・PR活動によって発される情報は、信頼できる情報や好意的に感じられる情報として認識されやすいためです。幅広いステークホルダーによって、企業や組織が厳しく見られる今の社会では、単純に企業やプロダクトが認知されることだけではなく、「自社やそのプロダクトがこの社会なぜ必要なのか」までを認識される必要があります。
これはすなわち関係性を構築していく作業であるため、認知を獲得する役割の広告のみではカバーが難しい領域です。

広告は主に認知獲得の役割を果たし、広報・PR活動は主に信頼や好意を得る役割を果たします。その相乗効果によって社会において自社の存在が必要とされた結果、売上向上、企業価値向上、採用率アップなどの果実を手にできるようになります。
もちろんこれは極めて単純化したプロセスであり、実際にはこれらの果実を手にするために、広告や広報・PR以外の要素も複数関連してきます。

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最近は「広告」か「広報・PR」かをコスト面から比較し、お金がかけられないから広報・PRを選択するという話もよく耳にします。また、冒頭に言及したように、「広報をすれば広告費を削減できる」というような触れ込みの広報支援サービスも存在します。
ただ前述のように、そもそも果たせる役割は異なるものであり、量も内容もコントロールが困難な広報・PR(メディアリレーションズ)で「認知獲得」を目指すと、疲弊していくことは明白です。
そして、広報サービスを促進する上記のような告知を「広告」を活用して行っていることが全ての答えです。つまり、広報だけで認知を取ることは難しいということが、ここで証明されているわけです。

自社の課題を解決していくためには、広報・PRや広告などの手段を適切に組み合わせ、目標を達成できるようにプロセスを設計していくことが大切です。このプロセスは、広報・PR活動単体で完結するものではないため、多様な部門が相互に関わりながら、施策を検討していくことで成果を手にするための近道になると思います。

鎌田陽子

〈この記事の著者〉
LEORIS合同会社 代表 鎌田陽子

ヤマハ発動機、ハースト婦人画報社等の広報・PR部門を10年以上経験したのち、2023年広報・PR支援を行うLEORIS合同会社を設立。
企業や団体・自治体等の広報・PR戦略立案から実行支援、担当者育成、危機管理広報の体制整備等に従事する。
早稲田大学大学院 経営管理研究科修了(MBA)
英国CMI Sustainability Practitioner

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