広報のコアメッセージの作り方 「メッセージハウス」を活用して“ブレない発信”を設計する方法
「なんだか発信の方向性も内容もバラバラ」
「言いたいことが固まらない」
「整っているようで、なぜか上辺だけの発信になってしまう(刺さっていない気がする)」
広報活動をしているとこういう壁にぶつかることがあります。
なぜか発信が散らかって見える。
プレスリリース、採用、営業資料、SNS、社長コメントがそれぞれ“正しいこと”を言っているようではあるけれど、なぜか外からは別々の会社に見えたり、良くない意味で引っかかりがない。
今回ご紹介するメッセージハウスは、このズレや違和感を減らすために効くフレームワークです。
メッセージハウスは広報に特化したフレームワークではありませんが、発信したい内容を“言葉の設計図”に落とし、誰が発信してもブレにくい状態を作ることができるツールです。
この記事では、メッセージハウスとは何か、広報での活かしどころ、注意点、そして向かないケースと工夫して使う方法まで、実務目線でまとめます。
この記事では、メッセージハウスについて、以下のことがわかります。
・メッセージハウスの基本構造(屋根・柱・根拠)
・広報戦略での使いどころ(いつ、どこに差し込むか)
・作るときの注意点
・向かない状況と、形を変えて使うコツ
では、早速進めていきましょう。
1.メッセージハウスとは
メッセージハウスは、伝えたい内容を「屋根(コアメッセージ)」「柱(主要メッセージ)」「根拠(証拠)」で構造化する方法です。この構造化によって、対象となるステークホルダーにしっかりと届く説明を構築することができます。
特定の個人によって開発されたツールではなく、海外の戦略的コミュニケーションの領域から広まったとされており、世界中の著名企業などで導入されている、世界標準の説明構築のフレームワークの1つであると言えます。
企業や組織が発信するメッセージは、スローガンのようにならず、一貫したストーリーとして設計されていることが望ましい状態です。
このストーリーを生み出すにあたって、大切になってくるのがその上位概念となる「ナラティブ」です。
「ナラティブ」は特にコロナ以降、広報の世界でも重視されるようになってきたもので、企業や組織が存在する意義や社会における役割を物語のように組み立てて伝えるためのものです。
多くの企業や組織が、企業理念やパーパス、ビジョンなどを掲げていますが、これらの言葉だけではその意図は十分にステークホルダーに伝えることは困難を伴うことはよく聞かれるケースです。
このような事態にならないように、また、もしそのような状態であったとしてもそこから脱却できるよう、企業理念やパーパスなどをストーリーとして整理し、多様なステークホルダーから共感され、自身との関係性を感じてもらえるような整理が必要となってきます。
このように、ナラティブを整理し、企業や組織の発信を支える土台として活用することができるフレームワークが「メッセージハウス」です。
ナラティブについてはここでは深く触れませんが、これからの広報活動においてはしっかり押さえておきたい要素なので、書籍などで学ぶのがおすすめです。
メッセージハウスの基本構造
メッセージハウスの基本構造は極めてシンプルで、以下のような形で構成されます。
・屋根:会社(または施策)が最終的に伝えたい核。一文で書くことで強さが出ます。
・柱:屋根を支える論点。3〜5本に絞ります。
・根拠:各柱を支える証拠。数字、事例、第三者評価、顧客の声などが該当します。
・補助(あると強い):象徴エピソード、たとえ話、想定Q&A、Do / Don’t(言うこと・言わないこと)

広報の領域では、メッセージハウスは「コアメッセージの作り方」をチームで共有し、発信物に一貫性を持たせるための土台として活用することが最も日常的に使いやすいシーンです。
スローガンを作る道具というより、“説明できる言葉”を作る道具であると理解するとメッセージハウスの効果的な活用ができるようになります。
メッセージハウスが整理できれば、さまざまな発信コンテンツに活かすことができ、一貫性のある発信(あるいは発信しない姿勢)の実現が近づいてきます。
2.メッセージハウスを広報で活かせる場面
メッセージハウスが有効的に働くのは、発信の直前だけではありません。
むしろ「広報戦略の立案〜運用」つまり、広報活動の一連の流れに横断で活かせることが特徴です。
広報の活動には一貫性がとても重要。メッセージハウスを活動トータルで横串を指すように活用できれば、一貫性を担保しながら活動を進めていくことができます。
ここから代表的な活用場面を挙げていきます。
1)広報戦略を「説明できる形」にするとき
戦略方針や重点テーマがあっても、社内で合意が進まない理由は“言語化不足”なことが多いというのがこれまでの経験からの感想です。
メッセージハウスに落とし込むと、
屋根=戦略の要約
柱=重点テーマ
根拠=強みと実績
に対応するので、説明が一気にわかりやすくなります。設計したメッセージハウスを共有すれば、各セクションで共通的に活用できる土台ができ、発信に一貫性が生まれます。
組織や企業のコミュニケーションを司る部門は広報だけではなく、人事やマーケティング部門も社内外とのコミュニケーションが多い部門です。
また、営業部門も顧客という重要な社外とのコミュニケーションの最前線にいます。
メッセージハウスが活用できれば、部門を跨いでもメッセージのコアが変わらないように発信することができ、結果的に企業ブランドの醸成に寄与します。
2)コーポレート課題が複数あるとき
課題が多い状況の時ほど、発信が分散しがちです。
この時でも意識しておきたいのは「屋根は1つ、柱は3〜5本」の形です。
このような時の設計のポイントは、課題そのものを柱にせず、課題を束ねる“意味のあるテーマ”を柱にすることです。
では、課題はどう扱えば良いのか、気になりますよね。
この場合、課題は柱の下にぶら下げる差し替え部品(根拠・事例・Q&A)として扱うと、採用候補者向け・メディア向け・顧客向け、など、対象となるステークホルダー別にぶれなくメッセージを出し分けしやすくなります。
3)複数いるスポークスパーソンの発信を揃えたいとき
スポークスパーソンが増えるケースでも、発信はブレやすくなります。
ブレを減らすためには「30秒/2分/10分」のトークトラックを共通化するのも効果的な方法の1つです。
こういうケースにもぜひメッセージハウスを活用してほしいと思います。
メッセージハウスで整理しておくと、
屋根→最初の一言
柱→論点の順番
根拠→数字と事例
という形で話す内容を統一することができます。
4)プレスリリースや記者向け資料の骨子づくり
企業や団体などの発信において、「何が新しいか」だけでなく「なぜ今それをやるのか」「どんな価値があるのか」が伝わると、ステークホルダーの理解が速くなります。
メッセージハウスは、
背景説明→切り口→裏付け
の順で組んでいくので、プレスリリースや説明資料などに落とし込む場合にも、わかりやすい構造を作ることができます。
5)炎上“予防”の想定問答づくり(平時の危機管理)
危機の初動においてはメッセージハウスではなく別の型が向きますが、平時の対策としては有効的に活用ができます。
柱ごとに
「疑問を持たれやすい(突っ込まれやすい)ポイント」
と
「答え方(事実/範囲/次のアクション)」
をセットで作ると、誤解が減らし、誠実にブレることなく回答することができる基礎にすることが可能です。
3.メッセージハウスを使うときの注意点
メッセージハウスは情報を整理して発信の基盤を作ることができる、広報でも活用しやすいフレームワークであることがお分かりいただけたと思います。
ただ、便利な型には落とし穴もあります。
活用の時には注意をする必要があります。
ここからはメッセージハウスを活用する場合の注意点をお伝えしておきます。
注意点1:屋根をスローガンとして設計しない
耳ざわりの良い抽象語だけの屋根を作ってしまうと、柱も根拠も支えられません。
屋根は「会社が約束する方向性」を一文で言い切るのが基本の形です。
どうしても抽象語を使う必要がある場合は、根拠で具体に落ちる設計にしておかなければ、機能しないのでここは最も注意が必要なポイントです。
注意点2:柱を課題の羅列にしない
「採用が課題」「認知が課題」などの課題を柱にすると、外向きの価値ではなく内向きの事情説明になってしまいがちです。
柱は“社会や顧客にとって意味のあるテーマ”に翻訳し、課題は柱の下の部品に回すようにしましょう。
注意点3:根拠が薄いまま形だけ作らない
各柱に最低3つ、種類の違う根拠を置くと、メッセージのブレがなくなります。
例えば、数字(定量)/事例(具体)/第三者評価(客観)/顧客の声(体験)などを根拠として使うことで、薄い内容から脱却することが可能です。
注意点4:「言わないこと(Do / Don’t)」を決める
広報活動を進める場合に、「何を伝えるか」はとても大切ですが、見落としがちなのが「何を言わないか」です。
ついつい「発信」に気を取られてしまいがちなのが広報活動。
しかし、言葉を足し、情報量が増えるほどリスクも増える場面があるということも知っておきましょう。
特に法務・品質・人事などのテーマは、言うことと同じくらい“言わないこと”が重要になるケースが多々あります。
こういうケースの場合は特に、Do / Don’tをセットにして設計しておくと、いざという時にリスクを抑えて活用することができます。
注意点5:作って終わりにしない(根拠の更新が命)
これはとても重要なポイントです。
メッセージハウスは実は育てて更新していくものでもあります。
ここで言う「育てる」とは、メッセージ自体を頻繁に変えることではなく、根拠(実績・数字・事例)を定期更新することを指しています。
例えば四半期で根拠を見直すだけでも、現場で使える状態をフレッシュな状態で長期に保つことができます。
メッセージハウスは魔法ではなく、結局は設計する側が積極的に情報を取りに行き、更新し、それを共有し続け、実際の発信を確認し、必要に応じて軌道修正を行なっていく「運用」こそが大切なのです。
担当になった場合は、メッセージハウスの更新の要否について定期的にタスクリストに入っている状況を作っておくのがおすすめです。
4.メッセージハウスが向かない場合と、活用するための工夫
メッセージハウスは活用の範囲が広く、便利で強いツールではありますが、決して万能ではありません。大切なことは、メッセージハウスを常に活用することではなく、メッセージハウスが効果的に働く場面を見極めて活用することです。そのためには、向かないケースとその理由を理解しておく必要があります。
ここでは、メッセージハウスの活用が向かないケースと、調整方法についてお伝えします。
メッセージハウスの活用が向かないケース1:探索フェーズ(価値提案が揺れている)
新規事業の立ち上げ直後やPMF前など、ターゲットや提供価値がまだ固まっていない段階。ここで屋根を固定してしまうと、仮説が“公式見解”になって後で動かしづらくなってしまいます。
<活用するための工夫>
完成版ではなく“仮説版”として設計する。
屋根を3案並列にして、検証前提で運用します。断定を減らし、方向性として表現し、運用していく方法がおすすめです。
メッセージハウスの活用が向かないケース2:ステークホルダーの利害が真っ向から割れている
地域住民と投資家、規制当局とユーザーなど、要求が矛盾する状況で「屋根1つ」にまとめると、抽象的で空っぽになったり、どちらかを切り捨てた印象が出てしまいます。
<活用するための工夫>
先にステークホルダー別メッセージマトリクスを作って見る方法がおすすめです。矛盾点を「事実」「未確定」「対話中」に分けて整理し、共通部分だけを“ミニ屋根”としてメッセージハウスに戻します。
向かないケース3:危機対応の初動(情報が変動し続ける)
事故・不祥事・炎上の初動においては、情報が変動し続ける状況となるのが一般的です。ケース1と同様に、状況が固まらないタイミングではメッセージハウスは機能させることにデメリットの方が強く出てしまいます。
このような状況下では、メッセージハウスなどで整理された美しい構造より「事実の確定」「更新頻度」「一貫した声明」などの対応が効果的です。
<活用するための工夫>
初動は声明テンプレ+更新型Q&Aで対応し、落ち着いてから信頼回復フェーズ(再発防止、体制、学び、今後の約束)でメッセージハウスを組み直します。
メッセージハウスの活用が向かないケース4:開示制約が強い状況(訴訟、M&A、規制対応など)
情報開示に制約が強い例えば訴訟やM&Aを控えているような場面では、言葉が増えるほどリスクも増える局面でもあります。実は、メッセージハウスは“言いたいこと”が増えがちなツールでもあるという側面を知って置く必要があります。
広報は発信が仕事だと思われがちですが、発信しないことを決めるのもまた、発信と同じくらい大切な仕事です。
<活用するための工夫>
先にディスクロージャーポリシー(言える/言えない/いつなら言える)を決め、言える範囲だけで短い屋根と少ない柱で組むんで設計します。
根拠は公開情報中心に寄せることで、情報量が必要以上に増えるのを防ぎます。
メッセージハウスの活用が向かないケース5:マルチ事業で統一すると価値が薄まる
複数の事業を持ち、事業ごとの顧客価値が大きく違う会社の場合がこのケースに当たります。
このような場合にコーポレートの屋根を強くしすぎると、事業の魅力がぼやけてしまうことがあります。
M&Aを複数回行なっている企業や、主力事業が変化してきた企業などは気をつける必要があります。
<活用するための工夫>
2階建てにして運用する。1階はコーポレートの最小限の屋根だけ共有し、2階で事業ごとに別ハウス(別の柱セット)を持つように設計します。
1枚に詰め込みすぎないのがコツです。
5.まとめ
メッセージハウスは、発信を整えるための「設計図」です。
企業や組織がトータルに判断される時代に到達した今、社内で多岐にわたるコミュニケーション部門やスポークスパーソンの発信に統一感を持たせていく必要性はますます高まっています。
メッセージハウスを活用して、今ある課題を「語れる価値」に変換することで、広報の仕事の価値も高まっていくと思います。
6.メッセージハウステンプレート
メッセージハウスのテンプレートをご用意しました。
こちらのページからダウンロードできますので、ぜひご活用ください!
メッセージハウステンプレートダウンロード
メッセージハウスを活用しやすいようにテンプレートをご用意しました。
以下のページからダウンロードしてお使いください。

〈本記事の著者〉
LEORIS合同会社 代表 鎌田陽子
ヤマハ発動機、ハースト婦人画報社等の広報・PR部門を10年以上経験したのち、2023年広報・PR支援を行うLEORIS合同会社を設立。
上場大企業からスタートアップ、製造業からITまで多様なフェーズと規模での経験が強み。
企業や団体・自治体等の広報・PR戦略立案から実行支援、担当者育成、危機管理広報の体制整備等に従事する。
早稲田大学大学院 経営管理研究科修了(MBA)
英国CMI Sustainability Practitioner
.png)
― お問い合わせ ―
LEORISはお客様の課題に合わせ、最適な広報活動のプランをご提案します。
広報・PRへのご関心や課題、お悩みをお持ちであれば、まずはお問い合わせください。

