“信頼経済の時代”に、理論と実践で考える広報・PRと信頼の関係


以前投稿した「広報・PR」と「広告」の違いについて、想像よりはるかに多くの方から関心を寄せていただきました。

「広報」と「広告」   知っておきたい役割の違い

広報・PRに関するお問い合わせで多いものの1つに 「広報」と「広告」どちらをするべきなのでしょうか? というものがあります。 近年、広報・PRを「タダでできる広告」と…

この投稿の中で、広報・PRの役割は「信頼や好意の獲得」と「関係性の構築」であると書きました。
今回はこの中で「信頼」について分解して考えてみます。

どんな仕事でも信頼が大切であるのは当然のことですが、「なぜ信頼が大切なのか」ここを理論で理解し、実践に繋げていくことができれば、広報・PR活動の幅がぐっと広がります。
そしてこういう背景を知っておくと、組織の中で広報・PR活動の必要性を問より説明がしやすくなります。また、経営者の方にとっても、なぜ自社が広報・PRに取り組むのかの腹落ちがあれば、成果を実感するまでに時間のかかる活動へ投資する迷いを低減することができると思います。

では、ここから早速ご紹介していきます。

目次

1.「広報・PR」と「信頼」の関係 
2.理論的背景:広報・PR=信頼構築の根拠
2-1. ステークホルダー理論
2-2. エクセレンス理論(Excellence Theory)
2-3. リレーションシップ・マネジメント理論
2-4. 社会的資本(Social Capital)理論との関連
2-5. レピュテーション・マネジメントの視点
3.実務的な根拠:広報・PR活動が信頼につながる理由
4.まとめ

1.「広報・PR」と「信頼」の関係 

企業や団体が情報を発信するのは、ただ知名度を高めたり、商品を売るためだけではありません。特に、広報・PRにおける情報発信は、社会や生活者、顧客、行政、地域社会など、多様なステークホルダーとの間に「信頼の基盤」を築き、その基盤をもとに、長期的に関係を維持するために必要な活動です。

SNSを中心とする情報拡散のスピードが速まった今の時代では、企業や組織に対する信頼は一瞬で崩れるケースがあります。不祥事の隠蔽や不十分な対応は炎上を引き起こし、採用活動やあらゆる取引にも深刻な影響を及ぼします。一方で、誠実な対応や一貫性のあるメッセージ発信は、企業への信頼を強めることに貢献します。

このようなことに加え、私は、信頼が大切である理由には、経済成長の鈍化とも密接に関わっていると考えています。人口減少がトレンドになった社会では、多くのビジネスで過去のように右肩上がりで成長していくことを常に約束できる状況ではなくなってきています。
右肩上がりの成長を記していた時代であれば、成長していることで存在の正当性を担保されていた側面も大きかったと思われます。しかし、そのような成長が難しい時代に、果たしてどのうようにしてステークホルダーとの関係を構築していくのかー。その一つの答えが信頼なのだと考えています。

ここからは、学術的な理論背景と、実務的な観点をあわせて整理しながら、「なぜ広報・PRは信頼を築く活動なのか」を紐解いていきます。
少し難しい部分もありますが、広報は「なぜ?」に応えることも大切なので、実践的な要素だけではなく、そもそもの理論に立ち返ることができるように理論的背景も併せてご紹介していきます。


2.理論的背景:広報・PR=信頼構築の根拠

1. ステークホルダー理論

経営学者のエドワード・フリーマンが提唱した「ステークホルダー理論」は、広報・PRの役割を理解する上で大切な理論なので、ぜひ知っておきたいことの1つです。
従来、企業は株主の利益最大化を目指す存在とされてきましたが、この理論では「企業は株主だけでなく、企業活動に関わるあらゆる利害関係者(=ステークホルダー)に責任を負う」とし、その信頼関係が企業価値を支えると考えます。
この理論が最初に体系化され、提唱されたのは1984年です。つまり、経営学の領域では、すでに今から40年前には、企業はステークホルダーに着目する必要があると説かれていたわけです。

この理論によると、信頼は以下のメカニズムで企業価値を創造し、支えるとされます。

① 取引コストの削減
:信頼関係により契約交渉や監視コストが削減

取引コストは少し難しい言葉ですが、例えば、信頼関係がない相手と契約を結ぶ場合、何度も調査を行ったり、契約チェックを複数回行ったりする必要があり、これらに包括されるコストのことです。
信頼関係が構築されていれば、このような取引コストを削減することを可能にします。


② 情報の非対称性の緩和
:透明性向上により市場効率性が向上

情報の非対称性も少し難しい言葉ですが、双方の持つ情報の量や質が異なり、一方がより多く質が高い立場にあることを指しています。一般的にはその立場の方がメリットがある構造です。
企業や組織が情報開示を積極的に行い、企業活動の意図や時にはリスクや課題も開示することで、ステークホルダーと企業・組織が双方に公平に意志決定を行うことを可能にします。
公平に意志決定ができるようになると、市場効率性が高まる、すなわち「無駄や歪みが少なくなる」状態に導くことができます。
取引に無駄や歪みが少なければ、正確な判断、コストの低下などが実現し、結果的に企業価値の向上に貢献します。

③ 長期的関係の構築
 :継続的取引による安定収益の確保

信頼関係があれば、長期的な取引を可能にします。①の取引コストとも関係しますが、信頼関係がない状態ではより信頼できる相手を探す旅をしなければならず、その都度取引コストがかかってしまいます。
信頼関係が構築できれば、同じ相手と継続的に取引することができ、無駄なコストを削減することが可能となるため、結果的に安定的な収益を確保することにつながり、企業価値の向上に貢献することが可能です。

④ リスク分散
 :多様なステークホルダーとの良好な関係によるリスク軽減

特に最近は、広報・PR活動によるステークホルダーとの良好な関係を築く必要性が説かれるようになりましたが、リスク軽減という観点からもその必要性を説明することができます。
例えば、企業のSNSが炎上するなどネガティブな事象が発生した場合に、すでにステークホルダーとの良好な関係性がある企業と、そうではない企業では、炎上の程度や回復の速度に差が出てくることが考えられます。信頼関係があれば「でも●●社なら、これは一時のことだろう。引き続き応援しよう」となる可能性があり、一方で信頼関係がなければ「やはり▲▲社だな。やっぱり信用するのはまだ早そうだ」となってしまう可能性があります。

ステークホルダー理論
ステークホルダー理論


2. エクセレンス理論(Excellence Theory)

米国のPR研究者ジェームズ・E・グルーニッグらが提唱した「エクセレンス理論」は、広報・PR研究の基盤とも言われる理論の1つです。この理論では、組織の広報・PR活動が「どのように行われれば最も効果的か」を研究し、その答えとして「双方向・対称的コミュニケーション」の重要性を説明しました。

これはつまり、企業や組織が一方的に情報を発信するだけでなく、社会からの声を受け取り、対話を通じて相互理解を深める姿勢が必要であることを説明しています。双方向のコミュニケーションによって、企業や組織と社会の間に信頼関係が築かれ、結果として組織の持続可能性が高まるとされています。

3. リレーションシップ・マネジメント理論

1990年代以降、特に海外におけるPRに関わる学術的な研究は「情報発信から関係性へ」と変化をしていきました。Ledingham & Bruningらが提唱したリレーションシップ・マネジメント理論では、広報・PR活動の価値は露出効果や情報提供にとどまらず、「関係性の質」にあると説明しています。

この理論では、組織と社会との関係性を測る指標として「信頼・満足・コミットメント」を提示しています。つまり、広報・PRとは「信頼を醸成し、満足を提供し、相互の関係にコミットする」ことによって成立する活動であると位置づけているのです。

4. 社会的資本(Social Capital)理論との関連

社会学の分野では、広報・PR活動は「社会的資本」を高める行為と解釈できます。
「社会的資本」とは、信頼・規範・ネットワークによって形成される社会的な資産です。企業や組織が地域や社会と良好な関係を築くことで、協力や支援を得やすくなり、事業活動が円滑に進むことが期待できます。
広報・PRは、この社会的資本の中核である「信頼」を強化する機能であると言えます。

5. レピュテーション・マネジメントの視点

企業評価の研究者チャールズ・フォムブランは、企業のレピュテーション(評判)は単に業績や商品力だけでなく、透明性・倫理性・社会性といった信頼要素に大きく依存すると指摘しました。広報・PRは、こうしたレピュテーションを形成・維持するために欠かせない役割を果たします。
信頼の積み重ねがブランド力の源泉となり、結果的に顧客や投資家の支持を獲得することに貢献します。

3.実務的な根拠:広報・PR活動が信頼につながる理由

理論だけでなく、実務の現場においても「広報=信頼」の構図は明確です。
広報の活動や方針を分解し、それらを誠実に遂行することで

  • 透明性の確保:事実を隠さず、正確かつタイムリーに伝えることで「誠実さ」が評価される。
  • 一貫性のあるメッセージ:企業理念やビジョンをぶらさずに発信することで、信頼感が積み重なる。
  • 危機対応の姿勢:事故や不祥事の際に迅速かつ責任ある対応を行えば、逆に信頼が強まることもある。
  • 第三者評価の獲得:メディア報道や口コミを通じて「外部からの信頼」を得ることができる。
広報・PR活動が信頼につながる理由
広報・PR活動が信頼につながる理由



広報・PR活動の本質は、これらを通じて「組織と社会の信頼関係を長期的に育むこと」にあります。


4.まとめ

広報・PRは、単なるマーケティング施策ではなく、社会と企業をつなぐ「信頼の架け橋」です。信頼は目に見えにくい資産ですが、企業の持続可能性を支える最大の財産でもあります。そしてその信頼は、一瞬で失われることがあっても、長い時間をかけてしか築けません。
「企業の良心を社会に示し続ける」ことを大切にし、それを積み重ねることによって、やがて強固な信頼へと結実し、企業の成長と持続可能性を支えるものとなります。

“信頼経済の時代”とも言われるこの時代に、広報・PRに真摯に取り組むことで、社会と企業の間に橋が架かり、より良い社会の実現に大きく貢献することを可能にします。広報・PR活動はそれだけの価値を生む可能性を秘めた取り組みであり、広報・PRに携わる人も、経営者の方々も、活動の価値に自信を持って進んで欲しいと思います。

鎌田陽子

〈この記事の著者〉
LEORIS合同会社 代表 鎌田陽子

ヤマハ発動機、ハースト婦人画報社等の広報・PR部門を10年以上経験したのち、2023年広報・PR支援を行うLEORIS合同会社を設立。
企業や団体・自治体等の広報・PR戦略立案から実行支援、担当者育成、危機管理広報の体制整備等に従事する。
早稲田大学大学院 経営管理研究科修了(MBA)
英国CMI Sustainability Practitioner